「SGLT2阻害薬」-糖尿病治療のパラダイムシフト-



2017/3/22

保健管理センター長の一言【「SGLT2阻害薬」-糖尿病治療のパラダイムシフト-】

 体内で消化・吸収されたグルコースは、血液循環を介して腎臓に到達して、糸球体で濾過された後に腎近位尿細管で再吸収されますが、腎近位尿細管におけるグルコース再吸収にはsodium glucose co-transporter 2(SGLT2)が主たる役割を担っています。SGLT2阻害薬は、腎近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害して、血液中の過剰なグルコースを体外に排出することにより血糖下降作用を発揮する経口糖尿病治療薬です。糖尿病は血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンの感受性低下あるいは分泌低下により発症しますので、従来はインスリン感受性や分泌能に働きかけて血糖値を制御する薬剤が使われてきました。SGLT2阻害薬は、インスリン感受性や分泌能に直接的には影響を与えることなく(影響を受けることもなく)、血糖降下作用を発揮する点が特徴的です。私は以前から、糖尿病治療に安易にインスリン分泌を刺激する薬剤やインスリン注射を行うことに疑問を持っていましたので、SGLT2阻害薬の尿糖を増やして血糖を下げるという作用機序は画期的だと思っています。
 心血管疾患の既往があり血糖コントロール不良の2型糖尿病患者にSGLT2阻害薬エンパグリフロジンを投与したら、総死亡のリスクが32%、 心血管疾患による死亡のリスクが38%とコントロール群に比べてそれぞれ有意に低下しました1)。さらに、心血管リスクが高い2型糖尿病患者にSGLT2阻害薬エンパグリフロジンを投与すると、腎障害の進行が抑えられ、腎臓に関連する有害事象の発生率が低下したことが判明しています2)。SGLT2阻害薬を投与するとインスリン非依存性に血糖値を低下させるため、体がエネルギー源を脂肪として利用するためにケトン体産生が亢進します。増加したケトン体が心臓や腎臓でエネルギー源として利用されることで、心血管や腎臓が保護されたのではないかと推察されています3)。また、膵臓がんまたは前立腺がんにおける動物実験では、SGLT2阻害薬がグルコースの取り込みを阻害し、腫瘍の成長を抑制したと報告されています4)
 何度もこのコーナーで紹介しているケトジェニックダイエットは糖尿病改善、臓器保護、がん抑制効果が期待されています5)。SGLT2阻害薬は糖質摂取を控えて、良質タンパク質・脂質摂取に重きを置くケトジェニックダイエットと同様な効果があるのではないかと考えられます。では、SGLT2阻害薬で血糖値をコントロールしなくても、ケトジェニックダイエットをすればいいのではないかと思われます。しかし、それができない人が糖尿病を発症したから、SGLT2阻害薬服用が意義あることではないか(救済処置)?いずれにしても、SGLT2阻害薬によるインスリン分泌に負担をかけない糖尿病治療は、従来の血糖降下薬によるHbA1c低下だけでは成し遂げられずにいた寿命の延長をも達成できる可能性を示したことになり、糖尿病患者のQOL向上に有効であると思われます。本来の創薬とは患者が健康な人と同じような暮らしやすさ、快適さ、心地よさなどを追求するものであるべきです。SGLT2阻害薬はそんな創薬の理想に近い薬剤ではないかと思います。
 先日、「糖尿学の進歩」という学術集会に出席しました。糖尿病治療のパラダイムシフトを感じたとても素晴らしい学術集会でしたので、学んだことを書かせていただきました。

2017年3月22日

1) Zinman B, et al. Empagliflozin, cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2015; 373: 2117-2128.
2) Wanner C, et al. Empagliflozin and progression of kidney disease in type 2 diabetes. N Engl J Med 2016; 375: 323-234.
3) Ferrannini E, et al. CV protection in the EMPA-REG OUTCOME trial: a“thrifty substrate” hypothesis. Diabetes Care 2016; 39: 1108-1114.
4) Scafoglio C, et al. Functional expression of sodium-glucose transporters in cancer.  Proc Natl Acad Sci 2015; 112: E4111-4119.
5) Paoli A et al. Beyond weight loss: a review of the therapeutic uses of very-low-carbohydrate (ketogenic) diets. Eur J Clin Nutr 2013; 67: 789-796.