学生アルバイトオススメ本

第126回 「穿った見方」をしている人/できない人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 石田 沙弥香
  私のオススメ

   『怪物』坂元裕二脚本 是枝裕和監督 佐野晶著 
   SCRAP出版 2023年4月発行

  

 真実はいつもひとつ」という有名な漫画のセリフがある。それに対し、「ひとつなのは事実であって、真実は人の数だけある」というまた別の作品のセリフがある。今回は後者に近い話をしていこうと思う。  
 皆さんは2023年に公開された映画「怪物」をご存じだろうか。数々の映画賞を受賞している話題作なのでタイトルを耳にしたことがあるという方も何人かいらっしゃるだろう。ある晩起こった雑居ビルの火災から始まった事件を、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、無邪気な子供たちの3つの目線で描かれる。不可解な様子を見せ始める息子、体罰、いじめは3人の目線から描かれた時、どんな真実の違いがあるのか。
 是枝裕和監督の作品ということで、社会問題を取り扱った作品であり、そもそも邦画ということで暗く、手に取りづらい印象を受ける方もいるかもしれない。しかしこの作品は起こった事件を3つの視点から見ることで「事実」を暴いていくサスペンスのような要素もありどんどんストーリーに引き込まれていく。
 ここまで書くとわざわざ本じゃなくて映画を見ればいいじゃん、映画を見た人は別に読まなくていいじゃんと思われるかもしれない。しかしこれは本でしか味わえない良さがある。特に一度映画を見た人にこそ味わって欲しいと思っている。その良さとは、文章で作品の情報が整理されているということだ。何を当たり前なことをと思われるかもしれないが、ことこの作品においては事象や人物の行動の意図、表情の解釈などが客観的に記されていることが作品の読みに大きくかかわってくるように感じる。
 映画を見ているだけではどんなに3人の目線で事件を見ても「それを見る自分」の解釈も入って来るため、どうあがいても主観からは逃れられない。しかし本として客観的に『怪物』を読むとまた別の見方ができるだろう。また、そもそも映画を見るのが苦手、考えながらストーリーを追っていくのが苦手という人にも本という形なら自分のペースで作品に触れることができる。
 この作品は作品の性質上はっきりとハッピーエンド、バッドエンドであるとは言い切れない。あなたの目線で見た『怪物』はどのような物語だったのか。ぜひ読んで確かめてみて欲しい。



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