私のオススメ本

第218回 静かな物語が好きな人にオススメ

おススメ本
 松江キャンパス 図書館職員 林 知代

  『カフェーの帰り道』
  嶋津輝著
  創元社  2025年11月発行

   
 嶋津輝の「カフェーの帰り道」は、派手な出来事は起こらないですが、自分や人の「弱さ」や「変わっている」をやさしく受けとめられる「想像する力」のようなものがじんわり心に広がる物語です。
 大正末期から昭和にかけての上野を舞台に、のほほんとした空気の漂う「カフェー西行」に集う人々の日常を描いた連作短編です。カフェーの女給として働く女性たちは、すこしだけ変わっています。竹下夢二の絵のようなタイ子、嘘を重ねてしまう美登里、小説家を志すセイなど、それぞれの心に“何か“を抱えて生きています。物語は彼女たちを中心に進みながら、周囲の人々の暮らしも丁寧に映し出していきます。
 戦前から戦後へと移り変わる時代のなかで、思い通りにならない現実を抱えながらも、それぞれが自分の歩幅で生きています。 すこしだけ世間からはみだした登場人物たちは不器用で、愛おしく、心配しながらついつい一気に読んでしまいました。 読後には、誰かの人生にそっと触れたような余韻が残る一冊です。
 
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